理美容組合の事務所などで次亜塩素酸生成器業者が機器などを提供し、対象地域の組合員へ無料配布している次亜塩素酸製品の検証です。該当地域の組合員の方から「どのようなモノなのか調べてほしい」と調査依頼がありましたので、簡単な試験を行うことにいたしました。まず、某地域の組合事務所において調査依頼された所属組合員の方に設置生成器より遮光容器に300cc程抽出して密閉し、そのままスーツケースに収めて送っていただきました。

試験体1

・無料配布
・平成29年5月15日夕方に抽出した弱酸性次亜塩素酸水溶液。
・次亜塩素酸用遮光容器*注1を使用
・2液(混合)式生成法の次亜塩素酸*注2
・近年は200ppmで無償提供しているとのコトだが、表記等はなし。

*注1
今回使用した遮光容器は一般的な遮光容器とは異なり、塩素に影響を極力与えない材質で作られている最新のタイプです。

*注2
強アルカリ性の次亜塩素酸ナトリウムと強酸性の塩酸を混合させて化学反応をおこし、次亜塩素酸が多く存在するph6.5(表1参照)になるように生成器で調整し、次亜塩素酸水溶液として抽出します。ただし、抽出後にも化学反応は進行すると考えられます。

試験体2

試験体2として、試験体1のうち、100cc程を密閉できる白濁した半透明容器(洗浄ルネサンス容器)に移し替えました。


放置環境
・直射日光が当たらない自然光下の室内*注3
・物陰にて放置
・前日夜に真上の蛍光灯を4時間程点灯

*注3
塩素は主に太陽光に含まれる250〜350nmの波長により光分解されます(表2参照)。蛍光灯には400〜650nmの波長なので分解されません。しかし、直射日光下ではありませんが、自然光下の室内なので半透明容器でも光分解が起きると予測されます。

試験器具

・共立理化学研究所分析用試験紙(残留塩素・高濃度用)
・ExcelvanデジタルpH計

試験1:平成29年5月17日8:00(生成40時間経過)

試験体1測定値:pH6.5・塩素濃度50ppm


試験1説明
200pmmで配布しているという話を聞いてましたが、従来通りの50ppmで抽出されているようです(写真1)。仮に200ppmで提供されて40時間程で50ppmまで低下したと仮定した場合は「電解式生成法*注4参照」での抽出が考えられますが、今回の試験体は50ppmでの二液式生成品かと思われます。

*注4
「電解式生成法」とは「塩化ナトリウム」と「純水」を原料として抽出されたものを指し「次亜塩素酸水」と表記されます。「次亜塩素酸水」のみ厚生労働省が「食品添加物」として認可しています。「次亜塩素酸ナトリウム」「塩酸」「酢酸」などが原料のものとは別物です。次亜塩素酸水は高濃度になるほど比例して塩素分解速度が早くなります。 

試験2:平成29年5月18日8:00生成(64時間経過)

試験体1測定値:pH6.3・塩素濃度50
試験体2測定値:pH5.1・塩素濃度10程度


試験2説明
試験体1の遮光性容器内の次亜塩素酸水溶液は、塩素濃度は色測定ではあまり変化がありませんが、pHは若干酸性に傾いております。試験体2の半透明容器内の次亜塩素酸水溶液は、あきらかに塩素濃度が落ちており(写真2)pHも酸性に傾いております(写真3)。

試験3:平成29年5月21日(生成134時間経過)

試験体1測定値:pH6.28・塩素濃度30程度
試験体2測定値:pH4.17・塩素濃度0(色変化ほとんど無し)


試験3説明
試験体1の遮光容器の次亜塩素酸も少しだけ酸性(写真4)に傾いております*注5。試験体1は生成数日で遮光容器でありながら塩素濃度が低下(写真5)していますが、多少の誤差の範囲内かもしれません。試験体2の半透明容器の次亜塩素酸水溶液は、塩素濃度はほ識別できませんでした。pHは更に酸性に傾いております。
 
強アルカリ性の次亜塩素酸ナトリウムと強酸性の塩酸を混合し生成している試験体は、化学反応が抽出後でも進んでいるために、厚生労働省では「低濃度」であることを条件として販売を認めております。

*注5
一般的に次亜塩素酸成分はpH6.5〜3までは安定しており(表1参照)、pH2.7までが「弱酸性次亜塩素酸水」という定義になっております。

試験総括

配布地域の組合員は無料で試験体である次亜塩素酸水溶液を持ち帰る事ができるとの事でしたが、通常の透明ポリ容器(半透明も含む)やバケツなどの容器で持ち帰った場合、翌日には「塩素濃度が非常に低い水」になっているかと思われます。持ち帰る過程で直射日光が当たる、運搬過程で空気と撹拌されるなどの環境次第では、当日でも濃度が急激に低下すると予測されます。このことから、理容店において剃刀などの器具における感染症対策に使用するには低濃度・低安定性ゆえに、一般細菌の除菌清掃を目的とした低水準消毒レベルの使用が妥当かと思います。
 
遮光容器でも密閉できるスプレーボトルなどに入れて、噴霧使用する場合は抽出後5日以内、蓋付バケツなど間口の広い容器などで汲み取りした場合は二日以内の使用を推奨いたします。半透明の給水用ウォータータンクなどは当日に使い切ってください。
 
試験体1に使用した遮光容器は塩素に影響与えない材質を使用した容器だったのもあるかもしれませんが、大きな変化はありませんでした。ただし「50ppm」は、肝炎ウイルスなどの感染症予防としての「複合洗浄消毒システム」には使用できません。「複合洗浄消毒システム」では「生成年月」「生成法表示」「使用期限表示」「高濃度500ppm」であり「次亜塩素酸ナトリウム」と「純水」で生成された特許・緩衝生成法の高純度次亜塩素酸水溶液「フィリオ30」を推奨しております。
 
理美容組合が組合員を対象として無償配布するのは、素晴らしい取り組みだと思いますし、組合組織の強みかと思います。ただし、提供側の生成器メーカーの「説明不足」、配布側である組合の「理解不足」、その結果生じる貰い手側の「知識不足」、そして「過大解釈された使用方法」という問題点が見え隠れしているかと思います。

抽出時の注意点

  • ・遮光容器もしくは、蓋付容器を使用して運搬時の直射日光は避ける。
  • ・運搬時は空気と撹拌しないように密閉し、静かに運ぶ。
  • 使い切る量のみを持ち帰り、すぐに使用する。

理容店における推奨使用方法

  • ・椅子などの清掃
  • ・ワゴンなどの清掃
  • ・トイレなどの清掃
    ・シェービングブラシなど浸漬メンテナンス*注6
    ・タオルの浸漬メンテナンス*注7

*注6
定期的にアルカリ性に弱い山羊毛などのシェービングブラシを10分程浸漬させてメンテナンスする。メンテナンス後は水洗いをしてから使用すること。

*注7
漂白剤(次亜塩素酸イオン)を使用できない色物タオルなどを、浸漬させてメンテナンスする。染色方法により脱色する場合もあるので自己責任の元で注意して行うこと。

問題が生じる恐れがある使用方法

  • ・剃刀や鋏などの感染症対策
    ・一般的な加湿器での使用*注8

注8
原料である次亜塩素酸ナトリウムにも等級により品質が異なります。また生成法の特性上、次亜塩素酸以外の不純物(ナトリウムや塩素など)が多く含まれておりますので、使用機器に不具合をおきる場合があります。

このような衛生管理に関するコトを楽しみながら体験しましょう。


一般社団法人日本衛生管理協会代表理事でもある藤井実が経営する理容室Fujiiにおいて実際の店舗における衛生管理を体験していただきます。少人数制で開催されますが、そのような環境を活かした説明なども行います。講習時間は2時間になり、講習費も変更されました。理容室Fujiiサイト